だいぶ昔の話。20代前半の頃。
4月の末だったと思う。一人で徳沢から蝶ヶ岳へ向かった。長塀尾根に取り付くとすぐに雪が現れた。残雪とは云え、雪山歩きには慣れていなかったので多少緊張していたと思う。先行者は居ない。トレースも見当たらなかった。当然道は出ていないので、尾根型をたどった。ただ、雪は良く締まり、ツボ足でも楽に歩けた。曇天で薄暗い森を歩き続けた。
傾斜が緩み、尾根幅が広くなった。密林であいかわらず景色も無い。ふと気がつくと、雪面に足跡を見つけた。これで一安心。足跡を追った。5分とたたずに、足跡は二人分になった。おかしいなと思った。そして、見覚えのある木々が。足跡に自分の靴を入れてみた。ピタリと一致した。ゴム底の形も同じ。瞬間、ゾッとした。
そして、「リングワンデリング」と言う言葉を思い出した。あせった。とりあえず、少しでも高いところへ行かなければと思った。廻りを良く見て進んだ。足跡はすぐに右側へ遠ざかった。
左前方に槍の穂先が見えた。ここでようやく地図と磁石を出した。今思えば遅きに失していた。地図上でシルバーコンパスの回転盤を廻し、槍と長塀尾根を結んだ。おおよその位置が判った。かなり上まで来ていることが判明した。そして、磁石をセットし、方向を定め進んだ。
森が切れ、蝶ヶ岳ヒュッテの赤い屋根が見えた。助かったと思った。主稜線上に雪は殆どなかった。槍・穂高連峰を始めて間近に見て圧倒された。
幸い、その後リングワンデリングにはまらずにいる。
雪山や藪山で磁石を使わず歩き出すのは致命傷になる危険がある。
藪山や雪山で右側に向かってしまう癖があることに気がついたのは最近の事である。なおさら、磁石に頼らなければ歩けないのである。
雪山や藪山で磁石を使わず歩き出すのは致命傷になる危険がある。
藪山や雪山で右側に向かってしまう癖があることに気がついたのは最近の事である。なおさら、磁石に頼らなければ歩けないのである。
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