小さな落石は良く見る。自分が発生源になってしまった事も何回かある。春先の雪渓歩きなどで、左右の山腹から小石が絶え間なく落ちてくる事もあった。巨大な落石に遭遇したのは一回だけ。

1995年5月28日。スキーを担ぎ、富士山頂を目指した。
当日の午前2:00過ぎに御殿場口5合目登山口に到着。仮眠後、7:00に5名で出発。寝不足に弱いおいらは、最初からピッチが上がらず、各合目ごとにザックを放り出した。山頂の鳥居が大きく見える9.5合目で強風と雪礫に見舞われた。あっという間に、雪面が硬くなってしまった。すでに13:00を過ぎていた。富士山未登頂はまさにおいらの鈍足が原因だった。最早これまでとスキーを着け、一斉に逃げるように滑り下った。
途中より雪渓を拾いながらの滑りとなる。滑りそのものは快適だったが、ガスに覆われはじめてしまった。
6.5合目あたりだろうか、スキー滑降はここらあたりまで。スキーをぬいでいたその時。ゴーン、ゴーンと重低音が響いてきた。見上げると白い雪渓の上に潅木。そして乳白色の霧。視界は50m位だったろうか。不気味な重低音がどんどん近づいてくるのが判る。落石だ!
どこから現れるか判らない。上方を凝視し、全員身構えた。そして、霧の中から突然巨大な岩塊が現れた。おいでなすった。と思う間も無く、岩塊は空中を跳ね上がり、ヒューンという音と伴に20m程脇を通過していった。なすすべも無く、ただ見送った。岩塊は重低音と伴に霧の中に消えていった。

岩塊の大きさは、はっきりとは覚えていない。ただ、かなり大きかった事だけは確かである。そして、恐怖のあまり、便意を催してしまった事をはっきりと覚えている。